「賛成ですと「賛成しますに関する一考察

时间:2022-03-10 04:17:51

1.はじめに

国立国語研究所により作成された「日本語学習者による日本語作文と、その母語訳との対訳データベースver.2(2001)という資料がある。これには、中国?インド?カンボジア?韓国?マレーシア?モンゴル?シンガポール?タイ?ヴェトナムの日本語学習者による日本語作文、作文執筆者本人による母語訳、日本語教師による作文の添削、作文執筆者?添削者の言語的履歴に関する情報という4種のデータのほかに日本語母語話者(大学生)による作文も収められている。作文の課題は2種類あり、字数は800字程度と定められている(新屋2003より)。

小論は、この資料を用いて、中国人学習者の日本語と日本語母語話者の言語使用の一例とを比較してみようとするものである。本資料は、各作文が内容的にも量的にも、またジャンルの面でも共通しているため、比較には恰好の材料と考えられるからである。

2.資料

上記のデータベースの作文のうち、喫煙の規則をテーマとする作文(課題2)を使用する。この課題は、喫煙の規制に関して自分の意見を記述してもらうものである。分析対象は中国人学習者の作文43編と日本語母語話者の作文44編である。以下中国人学習者の作文を「CN、日本語母語話者の作文を「JPとする。

新屋2003は、このデータベースに現れたCNとJPの日本語の述部を、当為形式、判断形式(「思う系と助動詞系)、認識形式、伝聞形式、表出形式(聞き手に訴えかける形式)、終助詞の「か、その他などの7類型に大別して、CNとJPの文末形式を比較した。

小論は、先行研究をふまえ、喫煙の規制に関して自分の意見を表明する際に使われた「賛成/反対ですと「賛成/反対しますという言葉に焦点を当てて分析する。データのうち、「たばこについてなどのタイトルを除くと、調査対象となる文数は、CN775文、JP709文である。従って、平均文数は、CN18.02文、JP16.11文であり、それほどの差はないと言える。

3.分析

作文は、喫煙の規制について「賛成か「反対かという態度表明を要求されていた。小論では、「私は喫煙を規制することに賛成ですのように、文末に「賛成または「反対のいずれかの語を用いて自分の態度を述べた文(以下「態度表明文とする)のみに絞って分析を行ったところ、以下のような結果となった。

CNでは43編の作文、全775文の中で、6例の態度表明文があったが、6例とも「私は、……賛成する/反対するという形を取っている。つまり、「賛成/反対という立場を「賛成する/反対するという動詞述語を持って表現していて、名詞述語としての使用は1例も見られない。

CNデータ例:

CN003-1 私は「公共の場所ではたばこを吸えないよう規則を作るべきだという意見に賛成する。

CN071-18 ぼくはたばこを吸わなくて公共の場所でたばこを吸うことを反対する。

一方、日本語母語話者の作文では、44編の作文、全709文のうち37例の態度表明文があったが、この37例のうち、「賛成または「反対が動詞述語として使われたのは4例のみで、ほかの89.2%に当たる33例は名詞述語として使用されている。この33例のうち、29例は「私を主語として、「私は……賛成/反対(派)ですという形を取っており、4例は「私の意見/考えを主語として、「私の意見/考えは……賛成/反対ですの形を取っている。以下、JPの名詞述語文の使用例である。

JPデータ例:

JP001-1 私は喫煙を規制することに賛成です。

JP033-5 両者の意見をふまえ、私自身の考えでは、基本的に規制に反対である。

このように、同じ語彙をもって同じことを表すのに、中国人の日本語学習者と日本人母語話者は大きな違いを見せた。

4.まとめ

文脈が用言を中心に展開していく日本語は動詞中心的とも言われているが、日本語の中では述語自体に名詞や名詞句が多用されている。「賛成や「反対などの動作名詞は、「するをつけることによってサ行変格動詞になる。こうした「名詞述語文と「動詞述語文の選択肢のなか、平均文数はあまり差のないものの、日本語母語話者のほとんどは、文末で「名詞を「述語とした、コピュラ文の形を持って自分の意見を述べているのに対し、中国語母語話者は反対に、動詞述語文を持って自分の意見を表す傾向を見せている。

たった一つの事例に過ぎないが、このような傾向の相違が中国語母語話者の日本語が文法の上では間違っていないが、どこか違う、日本語らしくない、どこか違和感のある一因になっているように筆者には思われる。その原因はさまざまであろうが、ひとつには話者が文を産出する際の気持ちに日本語母語話者とは確かに違ったものがあるのではないかという気がする。この差異は何に由来するのであろうかというのは、今後の課題としたい。

参考文献:

安藤貞雄(1986)『英語の論理?日本語の論理大修館書店

池上嘉彦(1981)『「すると「なるの言語学大修館書店

新屋映子(2003)「日本語の文末形式―中国人の日本語作文と日本人の日本語作文を比較して―『松田徳一郎教授追悼論文集研究社

上一篇:地方本科院校产学研合作的机制分析 下一篇:Situational and Communicative Methods in Te...